夏と氷
2007.07.25(Wed)
「翡翠の雫」より、フライング小話。 壬生兄と弟のお話です。   小話その5。

小太郎視点。
本編前、まだ壬生兄弟が別の学校にいたころ、ある夏の日のなんでもないお話です。
書いてて楽しかった・・・。
ツルツル書けましたよ。

いつものように捏造妄想小話ですよ。
それでもよいとおっしゃられる素敵な方はどうぞ!



屋上のドアを開けるとむっとするような空気と共に、一気に襲い掛かるような熱気を感じた。
「あっちーな」
条件反射のようにうんざりとした声でそう言うと、壬生小太郎は抜けるような濃い青空の下、ううん、と思い切り背伸びをした。

実は暑いのは嫌いではない。
特に、夏の暴力的な暑さは、「いっそここまで暑いと潔い」と思えるほどだ。
そう言うと彼の兄などは恐ろしく眉をひそめて、「熱に脳が沸いたか」などと吐き捨てるのだが。

鼻歌交じりで屋上の給水塔の上に登ると、小太郎はあぐらをかいて座った。
いそいそとポケットから取り出したのは、昨日やっと手に入った新型の「KUNAI☆8000」だ。
日に透かすように太陽にかざしてみると、黒くつやつやしたクナイがびかり、と光った。
「うわ、やっぱすげーな。早く使ってみてー」
小太郎は上機嫌で手の中で「KUNAI☆8000」をくるりと回した。

「黒豆。外で武器を出すなと何度言ったらその小さな脳みそは理解するんだ。誰かに見られたらどうする気だ」
ふいに影が差したと思ったら、まるで氷がしゃべっているかのような声がした。
心なしか後ろから冷たい風が吹いている気がする。
小太郎は小さく舌打ちをすると振り返りもせず、「そんなヘマするかよ」と言った。
振り返る必要もなく、自分に気配を気づかせず後ろに立てる人物、しかもこんなに性格が悪い奴は一人しかいない。
不本意ながらも自分より先にお袋の腹から生まれた人物、彼の兄の壬生克彦だ。
「それより、兄貴。『黒豆』ってなんだよ」
「お前以外の何かに聞こえたのなら聞かせてほしいものだな」
小太郎は振り返ると、じろりと克彦を睨みつけた。
ここで言い返すのは得策ではない、だいたいこの兄に口で勝てたことなど一度も無いのだ。
そう思いながらもつい口を開く。
「・・・じゃあ、兄貴は白豆かよ」
そう言うと克彦は氷でももう少し暖かいだろうというほどの冷笑を浮かべ、フンと鼻で笑った。
その表情はなまじ克彦の顔が色白で整っているだけに、よけいに人形めいて寒々しく見えた。
「おまえの想像力の無さ、語彙の貧困さにはいっそ感心するほどだな。少なくとも、おまえと違って豆と言われるほど背が低い覚えはない。・・・まあいい。長が呼んでいる。午後の授業はいいからこちらへ来い、とのことだ。確かに伝えたぞ」
それだけ言うと克彦は小太郎に興味をなくしたように背を向けて、次の瞬間には屋上の床の上に降りていた。
何事も無かったように屋上のドアに向かい、そのまま出ていく。
これだけ暑いというのに、まるで彼の周りだけ夏ではないように涼しげに見えた。
そういえば先ほどの克彦は汗一つかいていなかった。

「・・・変わった奴だよなぁ」
頬杖を付いて見送る。
似てない兄弟とは昔からよく言われるが、当の本人が一番そう思っている。
まあいいか。
小太郎は手に持っていたクナイを一度見るとポケットにしまった。
「さて。こいつを使う機会があるといいんだけどな」
そう言うとひょいと降りて屋上のドアノブを掴んだ。
瞬間、
「あっちぃ!」
ドアノブは太陽に熱されてヤケドしそうに熱くなっていた。
まったく常と変わらぬ様子でドアノブを掴み出ていった彼の兄を思い出し、彼は眉をひそめた。
「あいつ・・・本当に変わった奴だな」

まあそんなことを言っていても、小太郎は彼の兄が嫌いではなかった。
夏の暑さと同じだ。
あそこまで変わっているといっそ潔い。
小太郎は一つ伸びをすると屋上を出て行った。






(おわり)


私は壬生兄弟を忍者の里の人と勘違いしているフシがあります。
そんな妄想のまま書きました。
楽しかったです!

・・・と、今思ったのですが、小太郎は別にクナイを始終持ち歩いているわけではなく、「守護者の武器」として、主人公に会ってから持つようになるのでしょうか。

シャララーン♪(クナイがわいて出る音)
「おわ、なんだこれ!? クナイ?」
「そうよ、それがあなたの守護者の証! さあ、それを取って戦って!」
「そ、そうだったのか・・・。よし、わかったぜ。とう!(クナイを投げる)」

・・・みたいな?(そんなバカな)
やばい、そうだとしたらとんだ勘違い小話だ。
ええと、そこらへんは生暖かくスルーしていただけたら嬉しいです・・・。
これは、ホラ、捏造妄想小話ですから!
おお、その謳い文句を便利な逃げ道にしてはいけませんね。

壬生兄弟は一人ひとりも好きなのですが、兄弟なんだと思うとより燃えます。
ヴフフフ!
「翡翠の雫」楽しみですね!
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